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Introduction
高度情報化社会において,超精密かつ微細なものつくり技術に対する認識はますます高まっている.当研究室では,様々な素材に様々な形状を高精度・高能率に付与する機械加工プロセスの研究を進めている.基本的な加工手法として,除去加工を始め,表面改質変形など幅広いプロセス技術の研究を進めている.また加工対象物は,マイクロオーダーからメートル級まで,また付与する形状はナノメーターオーダーの表面構造からマイクロオーダーの三次元立体構造,そしてサブミリからミリスケールの複雑形状の成形まで極めて多岐にわたる.一方,マイクロファブリケーションからナノテクノロジーの研究に向けて,当研究室では洗練されたメカニカル手法を適用し,ナノ表面の効果的な加工法を展開している.また,究極の加工を目指し,超高精度計測法や加工シミュレーション手法の研究を融合させた研究テーマにも波及している.
このようなものつくり加工プロセスに関する研究で,当研究室は多くの機関,企業との受託研究や共同研究を実施している.また,ELID研究会,マイクロ加工研究会など,当研究室から発足した各研究会がそれぞれの分野をリードする活発な活動を展開している.さらには当研究室から派生した多くの実用化技術が研究成果の普及のため活動しており,連携企業・機関とは,一層精密化・微細化の進展する先端加工プロセスの時代的な要求に応えるべく,ウルトラファブリケーションテクノロジーに関する共同研究開発を推進している.
以下に当研究室の主要な研究,開発,実用化内容を紹介する。
○ 研究内容 Research Activities
1.マイクロ構造/機能素子のためのナノメカニカルファブリケーション研究
①ELID加工法の研究 Research on ELID-Machining
高効率鏡面加工を実現するELID加工メカニズム制御とELID法の適用範囲の拡充,さらにはその効果について解析的な研究を進めている.具体的成果として,X線ミラー材料であるSiC, CVD-SiC,ゼロデュア,そしてフィルタ材料としてのサファイヤ,デバイス材料としての単結晶SiC,中性子物質レンズに使用するMgF2等の硬質・脆性材料に対して,微細な表面加工を延性モードで実現するための諸条件を検討し,高効率かつ良好な鏡面加工を実現している.また,半導体材料に対しては,加工液中への金属イオン混入および加工ワークへの金属汚染の低減を目的として,カーボンを導電性材料とするメタルレスボンド砥石を開発し,シリコンウェーハを主対象として加工試験を展開しその効果を実証した.さらには,耐熱材料であるインコネルの高品位加工への適用効果も確認した.また,ELIDプロセス中の電気化学反応により,生体適合材料(ステンレス鋼やチタン合金など)の表面に安定な酸化皮膜を付与することができる表面改質機能も明らかになりつつあり,ELID加工を施したコーティング皮膜(TiAlN,CVD-SiC,Al2O3など)の表面改質加工の検証も進めている.特に,AFMやナノインデンターを用いたナノレベル表面解析手法により,新しい知見が得られ始めている.
延性破壊 | 延性破壊 | |
Ce添加Gd2Si05(GSO)単結晶 脆性・延性破壊遷移現象の解析 |
(a)表面改質加工 |
(b)従来研磨 |
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表面改質加工の効果 |
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○ 新しい表面改質加工法"EG-X"の研究開発
○ 自動車部品の新しい加工技術「ELID ホーニング工法」を共同開発
②超平滑加工の研究 Research on Ultrasmooth Machining
半導体材料,光学素子材料,生体材料,機械部品に対して,ナノレベルからサブナノレベルを目指す極限平滑面を創成するメカニカル/ケミカル加工手法と,これに高い形状精度を付加させるスーパーポリッシング手法の検討を進めている.まず,メタルレジン砥石をベースに開発したメタルレス砥石とサブミクロン・超微細ダイヤモンド砥粒を適用して,単結晶シリコンの超平滑加工を試みた.その加工表面分析・解析を進め,金属汚染がなく,かつ数ナノメーターの超平滑面が達成できることを確認した.超硬質材料としては,CVDダイヤモンド膜の超平滑加工試験を行い,ナノレベルの表面加工の実現できる条件の検討を進めている.また,チタン合金等,生体材料の超平滑加工面の持つ機能についての表面解析,評価を進め,耐食性・トライボロジー特性の大幅な改善手法を実現した.
また,鋳鉄ボンド砥粒レス砥石を用いて水晶を加工し,酸化セリウム砥石とほぼ同等の表面粗さを達成する優れた成果が得られている.砥石表面の酸化膜の持つメカニカルな加工効果とともに,加工特性の温度依存性などから,ケミカルな加工要素を含むことを想定して,試験ならびに解析を進めている.超精密光学素子の仕上げ加工に用いる研磨加工法の研究も進め,環境整備として超純水発生装置の導入などを行い,ウルトラクリーン・スーパースムーズポリシングの研究も展開した.また,自由曲面の超精密ポリシングに適用できる補正ポリシング用プログラムの研究を進めている.
超平滑加工の様子 |
超平滑面粗さ(P-V1.65nm, Ra0.3nm) |
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○ 進化する超微細加工技術‐ELID研削法からブロードバンド加工へ
③超微細加工の研究 Research on Ultrafine Machining
マイクロメカニカルファブリケーションの加工手法の研究において,機能性構造体の代表的な例として,ゲルマニウム・イマージョングレーティングや中性子物質レンズ(フレネル形状,プリズム)加工等の検討を進めている.微細な形状創成加工には,ツール先端を数ミクロン以下のシャープネスに創成するツルーイング手法が不可欠となるが,プラズマ放電を利用した手法によりシャープエッジを持つダイヤモンドツールを創成し,赤外域や中性子などの光学機能を持つ各種材料に対する微細加工プロセスの構築を進めている.
一方,超微細加工を効率的に実現することを目的として開発されたデスクトップマシンのためのワークハンドリングと計測手法の研究ならびに構築を進めている.また,数十ミクロンから数ミクロンものシャープな先端径を有するマイクロミーリングツールの加工手法を検討し,マイクロギアなどの微細形状加工効果を実現した.さらに,微小加工物の強度におけるスケール効果,疲労や摩擦摩耗現象を検証するためのマイクロトライボロジー領域での試験を展開し,新しいコンセプトの確立を進めている.また,インプロセス・オンマシン計測手法の研究を進め,測定評価および計測ソフトの検討を行なった.微細溝形状の測定を可能とする機上測定プローブ,マイクロ光学素子に対応した機上干渉測定装置,AFMによる機上マイクロ測定法の研究を進めている.
マイクロツールの微細加工 |
回折格子の微細加工 |
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○ マイクロメカニカル加工のためのデスクトップ駆動システムの研究
2.超精緻成形加工の応用とコンピュータシミュレーション研究
材料成形加工に関するシミュレーションプロセスの実用化,および精緻成形プロセス,成形に関わる技能・技術の継承のためのデータ収集手法の開発を目指して研究を進めている.これまでの成果・ノウハウを統合した高精度・高速なシミュレーションソフトウェアを具現化するべく,計算時間が非常に長い板材成形やハイドロフォーミング・シミュレーションソフトの開発・改良を引き続き行っている.さらに,プレス成形テンプレートの改良を行い,作業工程設計の効率化に寄与できる工夫を行っている.
また,マイクロコンポーネントの量産化を想定して開発したマイクロ金型を用いたマイクロ射出成形手法の検討を,引き続きシミュレーションと連携して進めている.射出成形システムのためのインテグラルシステムの構築として,金型テンプレート化とともに,金型の切削,研削,研磨の各工程間の表面状態を評価し,フィードバックするシステムの構築に必要な手法の検討を進めている.
3.マイクロファブリケーションの応用研究
先進光学素子開発などを狙い,測定データによるフィードバックシステムの検証を引き続き行い,大口径非球面加工においてシステムの検証を進めている.また,X線ミラーの加工プロセスの検討を行い,大阪大学との連携により,400mmの長尺集光ミラーをナノオーダーの精度で加工し,硬X線による集光試験で長焦点距離(550mm)において,世界的にも類を見ない回折限界集光に成功したELID/EEMとの連携化にかかる知見に基づき,さらなるハイブリッド加工を,東京大学,立教大学などと進めている.特に,ELID/MRFとのハイブリッド化に伴い,さらなる高精度化を目指すアクティビティを進展させている.
また,極限宇宙研究推進グループEUSOチームと連携している宇宙望遠鏡JEM-EUSOにおいては,1.5m級の両面湾曲型フレネルレンズ,700nmの回折構造の作製を成功させており,その知見に基づいて,テレスコープアレイ(ユタ州)チームとの共同実験で使用する1m級のフレネルレンズの開発,さらに,環境利用をターゲットとするプロジェクトや共同研究等における500mm~1m級の集光型レンズの作製にも取り組んでいる.また,ナノプレシジョン加工により,特徴的な微細形状パターンを施すことにより新機能を発現させる構造加工にも一定の成果を得ており,引き続き実用化に向けて試験を続けている.
一方,伊藤ナノ医工学研究室と共同で三次元の生体組織の作製に関する研究を行い,バイオマテリアルを数μmの太さでパターニング可能なことを実証したPELID法を応用して,プリンテッドエレクトロニクスの研究を進めた.
これらの一連の研究成果は,スーパー・アナライザー開発テクノロジー研究推進グループ,光グリーンテクノロジー特別研究ユニットや光熱エネルギー電力化研究チームとも一定の連携を保ちながら研究を進めている.また,太陽光励起レーザーの研究として,マイクロレンズの開発とレーザー媒質の開発に着手している.
4.トライボファブリケーション研究
トライボロジーと加工および製造プロセスとを繋ぐ境界・融合領域を"トライボファブリケーション"として,ツール加工面の摩擦・摩耗特性と加工現象を学術的に取り扱う研究を遂行している.その結果,工具材質及び要素技術と加工技術とのマッチングが容易になり,新たな加工技術のブレークスルーを生む環境整備に繋がっている.具体的には,光学素子加工用の新しいダイヤモンド工具の開発において,ダイヤモンド工具の長寿命化を狙い,ナノ粒子(ナノカーボン,ナノダイヤ,カーボンナノチューブ)配合切削用水溶性クーラントの潤滑性評価を行うことで,開発にかかる知見を得ている.
また,並行してクーラント方式の検討も行い,ダイヤモンドバイトに対するイオンショット法による潤滑効果すなわち表面の改質効果の影響を明らかにしている.そして,これらの知見をもとに,ナノカーボン添加水溶性クーラントを使用し,単結晶ダイヤモンドバイトによる難削材の光学素子(アモルファスフッ素樹脂)の超精密切削加工を行った結果,ナノレベルの平滑面が達成されている.また,ダイヤモンドの表面改質により,化学摩耗の抑制につながる新機能を付与する検討を進めている.